21/山の民と狩猟



山の民と狩猟

11月15日、猟期が始まる。初猟の日、仕事を休んで猟に出かける人もいるほど、猟師はこの日を心待ちにしている。早川町には現在、40人の猟師がおり、10人程度のグループが4つある。中には、単独で罠や犬を使った猟をする人もいるが、週末には数人が集まり、セコ猟と呼ばれる犬を使ったグループ猟で、猪や鹿を獲る。
猟の仕方は、地域によって様々だが、早川町内で行われているグループ猟に、大きな違いはない。セコと呼ばれる人が、犬を連れて山に入り、犬が獣を追っているか、獣がどの辺りを逃げているか、無線でマグサに伝える。マグサとは、獣が犬に追われて逃げる道のことで、犬に追われて獣が逃げてくるのをマグサで待ち伏せする人のこともそう呼ぶ。犬に追われると、猪は山の中の平坦地か谷間で犬と格闘し、ブーブー威嚇しては逃げる。鹿は走って熱くなった体を冷やすことと、川の中を長い足で巧みに走って臭いを消し、犬の追跡をかわすために川に下りる。獣によってマグサは変わるうえに、マグサをはった場所に必ず獣が逃げるとは限らない。セコはその場の状況をよく読んで、必要ならばマグサに移動の指示を出す。しかも、状況は刻一刻と変わり、悠長に考えている暇はない。命がけで逃げる獣を、そう簡単には獲れないのだ。猟師はそんな獣との知恵比べをおもしろいと言う。
今回、「かのし会」の猟師たちが、「ニクの日」と称して年内最後の猟を行う12月29日を追った。

 

山人インタビュー⑥

かのし会の中心メンバー、深沢守さんと深沢肇さんにお話を伺いました。

獣が獲れれば、それで猟が終わり、というわけではない。仕留めた鹿を川から引き上げ、解体作業に入る。鋭いナイフを使って皮をはぎ、内臓を取り出し、肉を部位ごとに分ける。肉は猟師さんが分け合って持ち帰り、日持ちしない内臓類はその場で料理される。それをつまみに、いよいよ宴会だ。
そこで猟師たちは、山の神様に感謝し酒を回し飲み、武勇伝を語り、失敗談を明かす。これは「絵語り」と呼ばれる大事な猟の一部で、そこで得た情報はその後の猟に活かされる。鹿を2匹獲ったこの日の宴会は大いに盛り上がり、猟の一日は夜遅くまで続いた。そんな席で、いろんな話を聞かせてもらった。

■かのし会ができたのはいつごろですか?
肇:俺が猟を始めた頃は、特に決まったグループはなくってね、声を掛け合って、行ける人と猟に行ったっちゅうわけ。猟師の数が多くて、ベテランの猟師はわざわざ獲れないかもしれない初心者を連れて行かんだよ。俺は下湯島の若い連中4~5人で、あまり使えない犬を連れて猟に行っていたわけ。そのとき、まぐれで鹿を獲ってから、これはおもしろいなってことで猟を続けとうだけど。昭和60年頃かな、守さんと行き始めて、いろんな人に声をかけとううちに、今のメンバーのかのし会ができたっちゅうわけ。

■猟のおもしろさは何ですか?
守:猟はうまくいかない時のほうがおもしろい。どの犬がどの辺で獣を追っているか、その時々の状況によって、全然違う展開になるからね。獣と知恵比べをして、追っている時が一番興奮するね。毎回違って、そのたびに勉強になるし。苦労してでも獲りたいものを獲りたいじゃんね。簡単に獲れるじゃおもしろくないね。

■犬が大事だと聞きますが、犬を選ぶ秘訣はありますか?
守:生まれて7ヶ月くらい経たんと、名犬になるかどうかわからん。いくら親が良くても、その子どもが全部良いとは限らんしね。素質があれば経験を積ませるだけど、あとは犬自身が勉強し、名犬になったりならなかったりだよ。

■猟へのこだわりはありますか?
守:かのし会としては、1発で獣を獲るように、徹底して若いのに教える。2発、3発撃てると思うと、人間、どうしても甘えちゃうからね。犬が獣を完全に止めていて、撃つのに余裕がある時だったら、できるだけ首を狙って撃つよ。宴会で、自慢できるしね。
それから、獲った肉は全部食べないかん。そうせんと、山の神様に申し訳ない。たまに犬が山で獣を噛み殺しちゃったり、ケガして逃げた獣が山の中で死んじゃったりして、見つけられん時、ほんと山の神様に申し訳なくって、どうしたもんかと思うよ。あとな、思うだけど、スーパーで肉を買えるのは、それを殺してさばいている人がいるっちゅうこんだろ。それを知らんで肉を食べるじゃなくて、知って食べて、ありがたみを感じんといかんな。
肇:そうだな。野生の動物を獲ってかわいそうだと言う人もいるだけど、家畜として育てられる牛や豚は、生きる喜びや辛さも知らずに殺されていくわけ。野生の動物は、人間との勝負に負けた結果の話じゃんね。食べられるだけの牛や豚の方がよっぽどかわいそうじゃねえけ。