28/山の教育事情

山の教育事情~早川北小学校の挑戦~

早川北小は、早川に2つある小学校の一つ、全校児童16名の小規模校だ。早川町にはもともと6つの小学校があった。昭和30年代には1万人を数えた早川町の人口は、現在では1500人に減少。それにともない子どもの数も減少し、学校の統廃合が進められた結果、現在は小学校が2校、中学校が1校のみが残る。
取材に訪れた2月のある日、校舎わきの階段に巨大な雪の滑り台が作られていた。順番にすべり台をすべり降りるこども達と、それを見守る先生たち。実は、大雪が降った数日前、児童と先生が総出で作った滑り台だという。人数が少ない分、先生と児童が一緒になって、学び、遊ぶのが、早川北小の大きな特徴だ。
山に囲まれ、子ども達の笑い声が響く早川北小。しかし、さまざまな教育問題と無縁なわけではない。学力、体力、なにより人とともに生きていく力をどのように育んでいくか。小さな学校だからこそ、そのような課題が先生、親・家庭、そして子ども自身にシビアにつきつけられる。
早川北小が直面する課題と挑戦を取材した。

 

北小先生方によるあつ~い魂の座談会

取材にご協力いただいた早川北小学校の先生方に、早川北小学校の良さ、子ども達への思いなどを伺いました。

●早川北小に赴任して、最初にどんなことを感じましたか?
保坂/ここに来る前は増穂小という県内でも人数の多い学校にいたのですが、北小に来た時に、本当に「家族」のようだと思いました。長い伝統の中で縦のつながりがきちっとできているし、学校全体で動くことも多い。先生たちの間にもチームワークがあります。
安藤/今日みたいに餅つきをやろうといったら、すぐ動ける。
笠井/お米が余ってるんだけどどうしよう。じゃあ餅つきやってみようかって。
横山/大きい学校では、そんなに簡単には動けないですよね。子どものほうも、学年で足並みを揃えなくてはならなかったり、みんなが同じ体験をできるわけではなかったりしますから。

●山の小さな学校で育つことが、子どもにとってどういう点でいいと思いますか?
笠井/経験値が違うんじゃないですかね。保護者や児童からよく、「大きい学校では絶対にやれないことを、ここではやれる」という声を聞きます。逆に、その分子ども達にプレッシャーもあるのですけど、やれる可能性があるっていうのがいいんじゃないですかね。
トム/北小の子どもは、入学した最初から人数が少ないですよね。英語の授業でも、北小の子は大きな声で、みんなの前でちゃんと話せますよ。
保坂/一人ひとりが主役になれるんです。ある程度の年齢になったらどこにいっても必ず自分で何かしなくてはならない。北小の子ども達は人の陰に隠れていられない環境の中で育ってきているから、どんな場面でも力が発揮できるんじゃないかな、と思います。
高学年の児童は大変な部分もあるとは思います。低学年の面倒もみなければいけなくて。例えば、6年生2人が先生たちが来る前に、自分たちの力で低学年を動かしてきちんと並ばせたりしている。この前、スキー教室に全校でいって、1~3年生だけ先に帰ってきたんですね。いつもは給食のときに高学年が準備や片づけを率先してやるんですけど、その時は3年生が歯磨きの準備をしたり、2年生がテーブルを拭いていたり。下の子たちもそういう姿を見ているから、いずれ自分達もああならなきゃな、と思ってるんですよね。

●小さい学校ならではの苦労はないですか?人数が少ないと競争がないので、将来大変だと心配されることなどはありませんか?
笠井/私が心の支えにしていることなんですが、ある保護者に「北小どうですか?」と伺ったときに、「いいよ」って言って下さって。「人数少ないですけど?」と聞いたら、横のつながりはないけれど、縦のつながりが。北小は隣の保育園の未満児さんからわらべどんぐり祭りに来てくれるおじいちゃんおばあちゃんまで、極端にいえば100歳近い人まで関わる機会があるんです。そこがいい、と。そういうところで社会性を身につけていくことができると。私の中では、競争相手がいないから不利だとは言わさないぞというか、絶対通じるぞと思ってやっています。
遠藤/1年生は、児童が一人しかいないんです。でも、「南小でも頑張っているんだよ」と、たくさんの人が他のところで頑張っていることを折にふれて伝えるようにしています。この場に人がたくさんいるかいないかではなくて、人がいることを想像できるかどうかだと思います。
安藤/北小の卒業生で、高校生になったとき、クラスで責任ある仕事をやることになって。ご両親が「あなた大丈夫なの」って聞いたときに、「おれは大丈夫。できるから」って言ったらしいんです。北小でなんでも自分たちでやってきたんだから、大丈夫って。

●どんな子どもに育ってほしいですか?
横山/今、経験していることを自信にして、将来やりたいところに向かっていける子どもになってほしいです。
安藤/感謝をする子どもでいてほしい。人とのつながりが大事だという、感謝の気持ちを忘れないでいてほしい。
笠井/子ども達の感謝の気持ちを伝えるということで、数年前から卒業式を地域に開放して、子ども達が関わった地域の人全員に招待状を送っているんですよ。こういう地域で育ててもらって、ああこんなにお世話になっている人がいるんだっていうのを知って、感謝の気持ちをもっていてくれればと思って。2年前は卒業生が一人だったんですけど、卒業式に100人以上の人が来てくれて。作る予定じゃなかったんですけど、自然に花道ができて。それからは花道作るもんだって思って作るようにしていますが、温かい卒業式になりました。