76/春の台所仕事

春の台所仕事


今年も、命の息吹を感じる春がやってきました。暖かくなり動き始めた動物や昆虫、芽を出しはじめた植物。そして、人々も春の訪れとともに動き始めます。豊富な春の食材をどう調理しようかと、わくわくする女性陣。この山菜が芽を出した、今年はあれが早いとか遅いとか、住民の会話にも自然と花が咲きます。

春先の山菜に共通するのはアク、そして独特の苦み。どうしてこんなに苦いものをわざわざ食べるのだろう?と、子どもの頃は苦手だった大人の味。アク抜きからは、昔は食べ物が貴重であったことや、知恵をこらして食べ物を確保していった努力を感じずにはいられません。遠い先代から、知恵と共に引き継がれてきた食文化に思いを馳せると、さらに「いただきます」が深まるような気がします。

春の台所はとにかく忙しい。次々に芽を出す山菜や野草を、摘んで処理して調理する。飽食の時代、わざわざ手間をかけて作ることもないと思うけど、それでも春が来るとどうしても作りたくなる味、食べたくなる味があります。
今回のやまだらけは、そんな春を待ちわびるお二人の女性から、春の山菜や野草を使ったとっておきのレシピをご紹介いただきます。

 

めっける めっかる あのときの早川

はやかわおもいでアルバム7

ゆうげぇしの合間の穏やかなひととき
(昭和30年代後半、都川地区京ヶ島にて撮影)

地面が硬くならないように、購入したばかりの耕運機を使って、集落の仲間で田んぼを耕しているときの写真。各家の田んぼを順番に回り、みんなで作業する。自分の家を手伝ってもらい、人の家も手伝う「ゆうげぇし(結返し)」という労働交換の方法だ。

この写真はゆうげぇしの際中、みんなで一服している時のもの。その日作業をしてもらう家がお茶とおやつを用意して、10時と15時に一服する。手前の一升瓶には、酒ではなく水が入っている。持参したガスコンロとやかんでその水を沸かし、淹れたての熱いお茶で一息ついた。重箱に入ったおやつは、小麦の団子や蒸したサツマイモ、こんにゃくや大根などの煮っころがし、お漬物など。ゆうげぇしの日には、普段より少し特別なおごっそう(ごちそう)を振る舞った。中でも赤飯のむすびは、最上級のおやつだったという。
当時、農作業や近所の家が大変そうなときは、お互いに手伝い合った。気兼ねなく、困っているときはお互い様と助け合い、集落はまるで大きな家族のようだったという。

ある時から「自分の家で機械を買ったから、好きなときにやる」、「お米はお店に行けば手に入るようになったから、田んぼをやめる」と一軒、また一軒と輪から抜け、みんなではやらなくなった。この頃集落に15軒ほどあった田んぼは、現在は4軒のみ。忘れたくない集落の記憶のかけらを映し出した、貴重な写真である。