78/現代に生きる強力

現代に生きる強力

法華経の聖地、七面山。50丁目には敬慎院があり、身延山を守護する七面大明神がまつられている。古くから霊山として信仰され、現在も多くの登詣者が敬慎院を目指す。その登詣は決して楽な道のりではなく、人びとはときに強力の力を借り、祈りの道を踏みしめてきた。
強力とは、登詣者の往復を介助する案内役である。案内から荷運び、そして駕籠人足といって山駕籠に人を乗せて運ぶ役目も担う。山駕籠の重さは約20キロ。一つの山駕籠を担ぐのは4~6人の屈強な男性たちだ。強力の仕事は、ただ山駕籠に人を乗せて担ぐだけではない。山駕籠に乗る人に寄り添い、また道中のアクシデントに備える。その険しい道のりを人を担いで登るには、強靭な体と精神が必要となる。

そんな話をすると過去の話のように聞こえるが、過酷なその仕事を今もなお継承する人物がいる。早川町で唯一の強力、依田淳さん(37歳)だ。強力を仕事にして17年になる。
依田さんのお祖父さんは、赤沢集落最後の強力であった。小・中学生の頃、荷物持ちとして祖父の強力仕事を手伝ったことがあるという依田さん。祖父亡き後、とび職などで生計を立てていたところ「強力をやらないか?」そう誘われて本格的に強力仕事を始めたそうだ。その背景には「早川の人が一人も強力をやっていないなんて」そんな想いがあったという。現在に強力を引き継ぐ依田さんの想いとは…。早川町と強力の今を考えてみたい。

 

今も息づく土地と人の関わり2

おにぎりを握る赤沢のお母さん

七面山への参詣客相手の仕事で、今も残るものの一つが「おにぎり作り」である。山へ登る方々へ、また山から下りてきた方々へ、表参道登山口でこのおにぎりを手渡す。多い時には500人を超える団体からの注文もある。そんな時は、夜中から赤沢集落の女衆が集まり握り始める。参詣客一人当たり二つ、合計で1000個握る夜もある。
江戸屋旅館の大女将、望月絹(きぬ)さん(91歳)は、江戸屋に嫁いだ時からおにぎりを握り続ける大ベテラン。炊きたてのご飯が入った巨大なおひつから、手にあふれんばかりのご飯をとりだし、手の中で数回くるくると踊らせると、瞬く間に形のいい三角おにぎりができあがる。大きさも形もピタリとそろったおにぎりが、長方形の木の箱に行儀よく並んでいく。握り終わる頃にはもう夜明け。熱々のご飯で真っ赤になった手を振って、おにぎりを手にした参詣客を送り出す。

写真:鹿野貴司