80/暮らしに息づく願いと祈り

暮らしに息づく願いと祈り


早川町の村を歩いてみると、「これは何だろう」と気になるものが見つかります。道端にある祠と捧げられた弓矢。畑の隅に挿してある小さな色紙の御札。屋根の上に置かれた竹の輪っか。集落の入り口近くの木にかけられた御札。
 
それぞれに意味があり、そこに暮らす人が毎年準備しているものです。村に暮らしてきた人たちの様々な願いや祈りが、形になって現れています。早川町には、人間や生き物だけでなく、いろいろな神様やご先祖様もご先祖様も、一緒に暮らしているような気がします。
 
 

めっける めっかる あのときの早川

はやかわおもいでアルバム7

京ケ島の風の神送り

(昭和36年、都川地区京ケ島集落にて撮影)

 『毎年12月8日の午後、「風の神送るなあ」と書いた紙を何枚もきれいにつるした笹を持って、子どもたちがお寺に集う。午前中、当番が竹を骨組みに杉の葉で御輿を作り、それを大きい子どもが四人で担ぐ。長老たちを先頭に、一同は鉦(カネ)と太鼓に合わせて大声で「風の神送るなあー」と繰り返しながら村中を練り歩く。村人が見る中、島川原で最高潮に達し、最後は御輿を早川に流す。この時の「おぶっく」(米や米粉でつくった団子)をいただくと、この冬は風邪を引かないと言われてる。』
 これは、京ケ島集落の祭りや行事の様子をまとめた「京ケ島集落の生活」(文/望月金光、編集/望月芳 ※読みやすさを考慮し筆者加筆 )で描かれた風の神送りの様子である。写真は昭和36年12月8日に執り行われたときのもので、撮影場所は常昌院の前。お寺から出発し、子どもたちが「これから村を練り歩くぞ」と張り切っている時ではないだろうか。

 「風の神送り」は、「風邪の神送り」ともいわれ、落語の演目にもなっている。風邪にも神様がいることにも驚くが、その神様を川に流して村人の無病息災を願う行為も興味深い。早川の暮らしの中には、良い神も悪い神も含め、生活を取り囲む有形無形全てのものに神が宿っている。その神々と上手につき合う心得が、山の暮らしの魅力の源なのだろう。