感謝と充足に満たされる 辻と祭祀の範囲 共同制作は集落の願いそのもの


 

山梨県では明治5年、県内の道祖神の祭礼を取り締まる通達が出されたのであるが、祭りや道祖神の石造体が道ばたから消えたのは甲府市域中央部ばかりのようで、早川町にも31集落に、35体の道祖神がいまも祀られている。県内他地域と同様に、町内の道祖神祭りは小正月行事との結びつきが強く、1月14日にはどんど焼きがおこなわれ、獅子舞が披露される地区もある。みんなで火を囲むのは、不思議とそれだけで楽しいものだ。

依代は「ヤナギ」と呼ばれている。本来は軸木から伸びる、しなりを効かせた竹枝のことだったのだろうが、町内では依代全体を指して「ヤナギ」と呼んでいる。ヤナギは道祖神祭りの数日後に倒され、円形に織り込まれ直した枝部を各戸に配り、火伏せの願いを込めて屋根の上に載せられる。令和2(2020)年に手伝いに行った下湯島集落のヤナギ作りでは、厚かましくも慰労会のご相伴に預かった。「昔は人も多くてヤナギ作りも賑やかだったけど、何人になろうとも、できる限りは続けていきましょう」、乾杯の挨拶をした地区役員の労いの言葉が心に残る。ヤナギは新しい春を迎えようとする花であり、依代の共同制作は集落の願いそのものと言えるだろう。

縁結びの神としての性格を併せ持つ場合もある道祖神は、基本的には悪霊(疫病)の外来をさえぎる神である。赤沢集落でおこなわれている「辻固め」も、同じような願いが込められ、集落の入り口となる道に御札が掛けられる。昔は道を挟んで木と木のあいだに張られた、10mほども長さのある手編みの左縄に取り付けられたそうだが、いまは車の往来があるために、縄と御札が、片側にまとめて掛けられている。

辻固めは小縄集落でも続けられているが、他所の「辻切り」「道切り」と同系だろう。同じ意味なのに、道祖神も祀られている赤沢では、辻固めは道祖神祭りとは全く別ものとして認識されている。一方、昭和に入ってから建てられた石造道祖神が存在するも、そもそもは道祖神信仰の形跡すら見出せない奈良田も、同じ早川の谷あいの集落として存在する。

 

◯早川町教育委員会、『早川町の石神・石仏(第一集)』
◯上野晴朗、『やまなしの民俗』