そば処武蔵屋 10周年の軌跡
土曜日の朝8時過ぎ、当番の3人が続々と出勤してきた。それぞれ近所で採った山菜を持っている。背負いかごを下ろした杉山美智子さんは、そば屋のすぐ裏に生えるハチク(タケノコ)を採り、お茶畑のお茶の葉を摘む。どれも「そば処武蔵屋」の本日の一品になる予定だ。旬の食材を調達し、お店の周りの掃除が終わったら、仕込みにとりかかる。
煮物の落ち着く香りが、店中に広がる。味がしっかり染み込んだ、フキやコンニャク。素朴な季節の恵みたちが着々と姿を変えていく。
慣れた手つきでそばを打ち始める。のし棒をなめらかに滑らせ、みるみるうちに四角くのばしていく。それをまたリズミカルに切る。手際よく準備する様子に見入っていると、あっという間に開店の準備が整ってしまった。
開店時刻の11時が近づく頃、来店客が現れ、気付けば賑わう店内。採れたてで水々しいヨモギやウドの天ぷらは最後に揚げ、そばは直前に茹でる。
一番人気のそば定食を頼めば、想像以上の満足感を味わえる。精製度の高いそば粉に、赤沢の美味しい水を使った、洗練されたつるつるでこしのあるそば。旬の山菜が香るさっくさくの天ぷら。田舎のやさしい味の季節の小鉢。次々と運ばれてくる料理に、田舎のおかあさんたちのあたたかいおもてなし。
町内でも人気で、県外に住むリピーターも多いそば処武蔵屋は、この7月に開店10周年を迎える。いつも美味しいおそばを打ってくれる武蔵屋さんの10年の道のりを辿り、その取り組みが地域にもたらしたものを考えてみたい。
めっける めっかる あのときの早川
はやかわおもいでアルバム4
赤沢宿の女性の仕事 七面山へ荷を運ぶ女性たち
(昭和40年頃撮影)
この写真は、赤沢宿の女性達が七面山の坊へ荷物を届けにいく一場面を撮影したもの。
七面山は、今でも日蓮宗の信者達がひっきりなしに訪れる信仰の山で、登山道の途中に坊が点々と建っていて参拝客を迎えている。写真中の女性達の荷にはガスボンベ等も見受けられるが、その重さは平均で約45 kgあったという。それを2日がかりで、標高差約一〇〇〇Mを担ぎ上げた。大変な仕事であるはずなのに、写真からは笑い声が聞こえてくるようだ。
仕事をしていたのは大人だけでなく、小さくは小学生位の子供からだという。その役目は「赤ちゃん」をおんぶして七面山へ登る事。もちろん、背負ったのはお客様の子どもではなく、自分の弟や妹。荷運びにかり出されたお母さんについて登り、おっぱいを飲ませたのだ。
赤沢の女性達は小さいときから七面山へ登り、子どもを産んでも重い荷物をひたすら運ぶ仕事にずっと関わってきた。この足腰の鍛え方が、逞しさに大きく関わっていることだろう。現在武蔵屋を切り盛りしている女性達の中にも携わっていた者が健在だ。荷物運びが無くなった今でも、その働きぶりと明るさは変わらない。
ちょっとやそっとの坂道などびくともせず、常にきびきびと明るく働く赤沢の女性の美しさを改めて思わされる一枚だ。