早川流アウドドアのススメ
早川の山は深く険しい。300mから800mにかけて散在する集落から、3000mを超える稜線まで、2000m以上の標高差がある。簡単には人を寄せ付けない姿だ。
しかし、かつてはこの山々が早川に暮らす人々の生活を支えてきた。木の伐採、金山採掘、焼畑、炭焼…。自然を利用し、また克服する様々な知恵と技術が生まれ、早川の文化となった。
そして、山での仕事が少なくなった現代でも、こうした文化は脈々と受け継がれている。狩猟や釣りは男達のレジャーであり、山菜やキノコは多くの家庭の食卓を彩る。時代が変わっても、早川の生活の本質とは、山とともに生きることなのである。
このように、山人は自然の恵みを知り尽くし、享受してきた。しかしまた、それと表裏一体である自然の恐ろしさも、身をもって体験してきた。だからこそ山に入る時は、常に真剣勝負。天気を読み、地形を捉え、常に危険を回避すべく行動する。そのために、道具を揃え、また改良を重ね、地形・道筋などの研究も怠らない。
今回は、山人が使う様々な道具にスポットを当てる。山人必須の道具とその使い方から、様々な局面への対応や山に入る時の心構えなど、山人の知恵と技術を学びたい。
巷ではやりのアウトドアとは、スケールもレベルも違う本当のアウトドアがここにある。
山人インタビュー3
取材にご協力いただいた鈴木長雄さんと深沢守さんに、山との関わりについてのお話を伺いました。
■どんな時に、どの辺りの山に入るんですか。
守:何といっても狩猟だね。あとは山菜やキノコを採ったり。釣りもした。奈良田の山全体を歩くね。
長雄(以下、長):狩猟に、釣りに、登山に…。俺も割合よその山には登ってないんだ。地元の山をやらなくて、よその山やっても仕方ないからさ。山に登るんだって、自分の周りで一番先に覚えるのが大事だと思うよ。
守:「山」っていうよりも、自分の庭って感覚なんだよね。自分の庭だから勝手も分かるし。勝手が分かるっていうのは、猟をするのにものすごく大事なんだよ。まぁ、奈良田から見える山は全部庭だね。
■どうやって山を覚えたんですか。
長:やっぱり、近いから何遍も歩いているのと、あとは冬、狩猟で見通しのいいときに結構覚えちゃうんだ。もし夏、木の葉が茂っていて見えない時は、ここへ降りてくればいいだな、なんてことをね。
守:経験を積むしかないよ。考えてみりゃ、子どもの頃から山に罠を仕掛けてウサギや山鳥を捕るのが遊びだったし。向かいの山の頂上くらいまでは子どもだけで行ったなぁ。親父の猟にも、中学生の頃からついて行ってたしね。そういう環境だったから、自然と山に行くようになったんだろうね。
長:うちでも、じいさんや親父から山のことはいろいろ聞かされていたね。「あそこへ行くにはあの道を通るだ」なんてことをね。
■先人から伝えられたことを、次の世代にどう伝えたいですか。
守:2人の息子と一緒に猟に行って、いろいろと教えているよ。まぁ、なかなか言った通りにできないんだけどね(笑)
長:俺は硯島の子どもたちにキャンプを指導しているんだ。将来ここを出ていっても、「地元にはこういう楽しみ方もあるんだな」って教えておけばいいんじゃないかって思うからね。