97/オホンダレ考 〜こりゃあいったい、何づらか?

オホンダレ考 〜こりゃあいったい、何づらか?

奈良田の小正月に見られる『オホンダレ』

この写真は、小正月に早川町奈良田集落で撮影されたもの。写っている木製の人形のようなものは『オホンダレ』と呼ばれている。木はヌルデ(奈良田ではヌルデを〝カツノキ〟と呼ぶ。以下、奈良田での呼び方を〝 〟で示す)が用いられ、伝統的には二尺五寸くらいの大きさで、皮を削って眼鼻口髭など顔の形を描く。正月十四日に門口のそばに飾られ、二十日に片付けられる。二本一対で、この2つは夫婦であるとされていて、写真左の髭のない方がオンナとなる。
古くからのものと思われるこの風習が、いまでも何軒かで続けられている。ただ、何のためにオホンダレを飾るのか、「よく分からないが、魔除けの意味があるんだろう」とされ、早川町誌の年中行事の項でも「他の町村でいう門入道であろう」と紹介されている。
我が家でも毎年飾っているが、このところ《魔除け》に少し違和感を持ち始めていた。ご覧のように、オホンダレの頭には削り花(〝ハナ〟〝カキバナ〟〝ドフーバナ〟など)や、リョウブ(〝ダンスバラ〟)の小枝に団子や餅をつけた「ハナモチ」「ハナダンゴ」が添えられ、むしろ目出度い様子。また、二本一対であるが、その二本よりもやや小さいオホンダレを一本、二本と加えて立て、「親だけでは寂しいずら、子供があってもおかしくねえら・・・」と答えたという奈良田人のエピソードも残っており、そこに注がれている眼差しも温かい。《魔除け》の意とはミスマッチな気がしてならないのだ。
そこで本号では、「オホンダレ考」と題する試論を通じて、この地域の基層文化に思いを馳せつつ、奈良田に見られるこの愛らしい小正月風習を、皆さんに紹介したい。(上原佑貴)

 

特別企画「鳥の目虫の目」 その4

デジタルアーカイブ

デジタル技術を用いて作成されたアーカイブ(=公共性または文化的な価値の高い、将来にわたって保存する価値のある資料を記録し、保存すること、また、その保存場所や保存機関)は、インターネットでの検索・参照・活用などが可能な点に特長がある。
思い返せば上流研は、設立当初からデジタルアーカイブに取り組んできた。例えば、このコーナーの第1回目(No.94)で取り上げた『2000人のホームページ』もその一つ。歴史というのは、公文書や書籍のような形で残されたものを根拠に語られがちだが、しかし文字として残されていない、人々が語る、それぞれの記憶にも同等の価値があるはず。『2000人のホームページ』は、インターネットの活用という当時では画期的な方法で、早川流域で引き継がれてきた山の暮らしをいきいきと照らし出した。いまでも公開されており、その中には現在では聞くことのできない生の言葉もある。町民の記憶の時代と、それを切り取った平成の時代を逆照射する貴重な記録として、将来的にも再評価されるときが来るだろう。
このほか、『はやかわおもいでアルバム』に町内の古い写真を集め取材した記録が公開され、また、ウェブサイト『奥山冥利』では、同じく第2回目(No.95)で紹介した「やまだらけ」のバックナンバーの公開だけでなく、上流研で収集してきた地域情報や資源データをもとに、他自治体のサイトでは得られないような、濃く深いマニアックな早川流域の情報が、テーマごとの記事になって掲載されている。
デジタルアーカイブの取り組みは、学生といった町外の若者や、町民の主体的な参加といった、〝上流研らしい〟ワイワイとした雰囲気を同時に生み出すのと違い、むしろ部屋の中での、地味な作業のもとに成果物が出来上がる。アーカイブデータを活用しやすい世代や職業にある人からの高い評価の反面、その価値が共有されるまでにタイムラグもあり、上流研の活動が町民に見えにくいという課題もあった。