自分でやるから賢くなる 石垣修復ワークショップがもたらすもの 未来は僕らの手の中


 

この写真は、かつての大原野集落の様子である。町政40周年を記念して発行された『目で見る はやかわの風景と歴史』掲載されているもので、昭和35年(1960)頃のものとされている。玉石がきれいに積み上げられた、傾斜地の農地を象徴する段々畑、そしてそれを支える見事な石垣だ。

コンクリートやモルタルといった接着素材を用いない「空石積み」という工法は、持続可能性の面で次にあげるような大きな利点がある。

①産業廃棄物を出さない …石垣が崩れても、積み直しの際には再び材料となる。

②すぐれた排水機能 …パイプからしか排水しないコンクリート擁壁と違って、全面に排水機能を有する。それゆえ、大雨にも強い。

③生物多様性を生み出す …優れた排水性・通気性によって、石垣の内側の土壌と外側の世界は分断されず、積み石どうしの隙間には、虫やヘビ、トカゲなど、様々な生物が生息する。

④二酸化炭素を排出しない …コンクリートの製造過程では大量の二酸化炭素が排出されるが、「空石積み」にはそれが全くない。

どれも時代に求められる価値と言えるのではないか。石積みの継承は、こうした価値観を共有していくことにもつながる。

早川町で令和元(2019)年より開催している、農地石垣の修復ワークショップは、全国の中山間地域で急速に失われていっている、昔の人が試行錯誤して確立させてきた大事な文化の伝承とともに、こうした時代に求められる価値を共有にもつながる。また、ワークショップに参加した人は、作業そのものを通じて、土地のことをよく知ることになる。そして石垣を直していく過程の中で、その景観は自分が携わったものなのだ、という当事者意識が芽生えてくる。身の回りの自然資源と地域内でつながる小さな工事によって実現するこの場は、人間尺度的で、再現性のある、持続可能な社会を目指す、山あいで引き継がれてきた、早川らしい野生を取り戻すための運動そのものなのだ。

 

〇町政40周年記念『目で見る はやかわの風景と歴史』
〇『やまだらけ』No.95
〇『図解 誰でもできる石積み入門』