ここは通称「かのし小屋」。地元の狩猟グループ「かのし会」が拠点とする。猟期に入るとメンバーはここに集合し、獲物が獲れれば解体作業もこの場所でおこなわれる。その後は宴会となる。
乾杯してすぐに、まずはその日の猟の様子を振り返る。犬が獲物を追ったルート、それに対する猟師の配置、武勇伝もあれば失敗談も。これは〝絵語り〟と呼ばれ、次回からの猟に活かされる大事な情報共有の時間。みんな、少し興奮気味である。
〝絵語り〟がだいたい終わると、山の神に捧げた酒をいただく。獲物を仕留めた人が最後になるように回し飲みする。この日仕留めたのは守さん。「(守さんの住む集落では)みんなやらなくなっちゃったが、俺は『山の神さん』の日の奉納は、必ずやってきた。去年は鉄砲休んだけど、山の神様がご褒美に、俺に撃たせてくれたんだと思う」とあいさつして、本格的に宴会が始まった。
早川の谷あいで山に携わる者ならば、「山の神」を無下にはしない。しかし山の神についての実態は、よく分からない。それは、歴史書としてまとめられた記紀よりもはるか太古から、この列島に根付いていた信仰に由来するもので、おそらく焼畑農耕文化の伝来にまで遡るのだろう。それがいまも、何とは無しに、山地民の心に息づいている。
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