苦楽を越えた絆に安心 古屋の市民普請 次の時代を予祝する、新しい集落の姿


 

集落で共有する道や水路、自分たちの飲み水にもなる水源、貯水池といった、生活に必要な社会基盤を、行政や業者に頼らず、地域住民で維持管理、修繕していくことを「村普請」と言う。早川町内のほぼすべての集落でおこなわれており、他出している集落出身者も、その日には戻って参加する人が少なくない。地域に家や土地を残している人にとって、集落の維持管理というのは、かなり気を遣うものである。

村普請をおこなわなければ集落を守れない。自分のところの水源がどこにあるのか、その水が旨いのか不味いのか、どれくらいの雨が降ると濁るのか、把握していないと、暮らしそのものが成り立たない。自分たちで必要とするものは、自分たちで何とかしなければならない。ブラックボックスを膨らませる都市化とは違い、自分たちの手の届く範囲で生きる要素の大きい、自律性の高い生活が維持されてきた。逆に、その人間らしい暮らしぶりが都市部の若者を惹きつける。

早川町内の古屋集落では、学生、あるいは学生時代に早川町と関わりの出来た若い社会人が、ボランティアとして駆け付けて作業に参加するという、興味深いスタイルの集落維持管理が10年以上続けられている(令和2年12月現在)。「市民普請」とでも言うような、これからも大事にしていきたい新しい文化である。最近では結婚して、縁のなかった旦那さんや、生まれた子どもまで連れてくる人もある。慰労会の酒が進むと、定期的に通ってきていた学生たちの卒業を寂しがるメンバーもある。すぐに「また来ますってば」と切り返され、なんとも微笑ましい。〝新しい集落の姿〟として、次の時代を予祝しているかのようだ。

 

〇『やまだらけ』No.55