その昔、早川の流域にある村は「早川入り」と呼ばれていた。今の早川町の大部分が、この「早川入り」に当たる。
早川入りの「入り」とは、「入り組んだ谷間」の地域を表す言葉である。南アルプスの2,000~3,000m級の山々に囲まれ、その谷間を早川が流れるこの地域の地理的条件を示した言葉として、古くから使われてきた。自然の豊さと同時に、人が入ることさえ拒むような厳しさを表していると言える。
国の天然記念物にもなっている「新倉断層」は、日本列島中央部を横断し、東北日本と西南日本を分ける延長250kmにも及ぶ断層・糸魚川 静岡構造線の露頭であり、こうした早川町の地理的特徴の成り立ちを端的に表している。
3,000mという標高差によって、町内には多様な動植物相が見られる。植物では、タブノキ、アラカシなどのカシ帯、モミジ類やブナ、ナラなどのブナ帯、コメツガ、カラマツやシャクナゲ、サラサドウダンなどのシラビソ帯、そして高山ではハイマツ帯を見ることができる。
野生動物では、天然記念物であるニホンカモシカやライチョウをはじめ、ツキノワグマ、ニホンジカ、ニホンザル、イノシシなどのほ乳類、ヤマセミ、クマタカなどの山深い地域にしか生息しない野鳥、イワナ、ヤマメ等の渓流魚も数多く生息している。
町の北部が「南アルプス国立公園」や「山梨県立巨摩自然公園」に位置づけられていることも、早川町が自然豊かであることの証拠の一つだと言えるだろう。
早川の自然の特徴 〜南アルプスの厳しさと豊かさ〜
早川町の特徴、それは南アルプスの存在だろう。南北に長く、369.86㎢の面積を抱え、その中で一番高いところは3,189m、一番低いところは230mと標高差は2,959mもある。
早川町の94%は森林に覆われている。豊富な水資源に加え、野生動物が暮らしていく上では好条件であるため、早川町の動物相は多様である。人間の侵入を阻んできた自然の渓谷が、野生動物の暮らしやすい土地を作り上げてきた。
地形や気候の合作が早川の自然であり、ここに暮らす野生動物は自然の恩恵にあずかりながらも時に険しさを見せる自然に適応してきた。
特にこの山岳地形で生きてきたカモシカが急斜面を縦横無尽に動く姿は、その土地で生命を営んできた姿そのものである。
(やまだらけ38号「早川の動物図鑑1」 より)